再掲Kiss & Cry

先日、余りにも簡単に書いてしまって愛が足りなかったので、もうちょっと書きます。


この曲はいろんな解釈の仕方ができて、一言で論評するのが難しいのです。
まず、珍しく純然たる「CMソング」であること。
今の音楽業界でタイアップというのが制作段階のどこで決まるのか知りませんが、"This Is Love"の実績もあり、シンクロしてアニメの制作も進んでいるのですから、2曲目は最初からCMソングとして作曲されたのだと思います。歌詞に「日清カップヌードル」と入っていますし、普通のシングル曲のタイアップという、営業に失敗したら普通の曲として出そう、というレベルではないでしょうね。逆に最近では珍しいほどちゃんとCMソングになっているともいえます。最近はアニメ映画の主題歌でもなんのアニメか分からないのが多いですからね。


さて、CMソングなのは分かりました。


次に中身です。
CMで聞えてくる部分はいわゆるサビの部分で、いかにも宇多田風の力も入っているけどちょっともの悲しい叙情性を感じさせるメロディです。だから私は、とうとうパターン踏襲のマンネリズムに入ってしまったかと思い、ダウンロードボタンのクリックにも気が乗らなかったのです。しかし、実はそれも仕掛けであったという、うれしいどんでん返しでありました。


演奏開始直後、全然関係ないホーンセクションのサンプリングみたいな音で始まり、「FOR YOU/タイム・リミット」の頃を思わせるR&B路線のリズムに乗ってA-B-とつながってCMの箇所にたどり着くと、なんだ全然聞え方が違うじゃないですか。
そして良く聴くと、この間自分の作品で使ったいろんなテを再現して見せています。
「ものはづくし」的羅列("Keep Tryin'"でやったお父さん、お母さん、お嫁さん…)、「あぃあーい」、だじゃれ的押韻など。


サウンドもデビュー後しばらく常用していたいわゆるR&B路線です。
これはひょっとして「もう、ヒッキーは昔のような曲は作れなくなったのでわ」と心配する純真なファンなどに「そんなのいつだって作れるよ」という回答の意味もあるのかもしれません。


題名からして作曲している時期にフィギュアスケート見てたんだろうな、と思わせる、彼女には珍しい脳みそだだ漏れぶりです。ただ、このくらいベタな方がこの曲の位置と、800万人の潜在顧客に対するメッセージとしては適当だという「レベル調整」なのでしょうか。


結論として、私はこの曲を宇多田流ノベルティ・ソングとして解釈しました。どうだろう?