聴いておきたいちょっと古い音楽 その1

洋楽なんかだと、ポップスの古典みたいなものがあって、例えばキャロル・キングみたいにとりあえず聴いておけ、という定番の音楽があります(サンデーソングブックとかでかかるやつ)が、日本の音楽ってなかなか古典としての地位が確定している音楽ってないような気がします。
そこで、趣味の問題ではありますが、聴いておいた方が良い日本の古典POPSになりそうな音楽について、時々書いてみたいと思います。
とりあえず、第1回は無難かつ、私が音楽の「物心が付いた」後にもっとも影響されたオフコースのアルバムを紹介します。
まず、オフコースの音楽を、とりあえず前期・中期・後期の3つに(私が勝手に)分けます
前期は69年のデビューから、アルバム"Fair Way"まで。細かいことを言うと、メンバーの出入りはあるのですが、オフコースというバンドが小田和正鈴木康博の二人のものとして語ることができる時期です。
中期は、アルバム"Three and Two"から"NEXT"まで。小田・鈴木のオリジナルメンバーに、松尾和彦、清水仁、大間ジローの3人が正式メンバーとして加わり、例の武道館10日間コンサートをピークに、オフコースが「天下をとった」時期です*1
後期は、アルバム"The Best Year of My Life"から89年の解散まで。鈴木康博が脱退して、少なくとも外からは「小田バンド」と見えていた時期になります。

今日紹介するのは、中期オフコースの完成型と思われるアルバム"Over"です。

シングル曲は「愛の中へ」と「言葉にできない」が収録されています。この前作である"We are"からのシングルが「時に愛は」と「Yes-No」だったことを思うとこのアルバムの地味さが際立ちます。今聴き返して思うのですが、何より音が良い。この時期のオフコース以降、日本のレコードのドラムの音が変わった、という話もあります(特にスネアのバシッという音とミュートしたバスドラムのコンビ。"We are"から起用しているミキサー、ビル・シュネーの持ち込みか?)。

私はこの"Over"を19歳で聴きました。何の予備知識もなく聴いたら、「良いけど地味だなあ」で終わってしまって、愛聴するようになったかどうか、自分の感性に自信がありません。というのも、実はこのアルバムには「NHKが制作した60分のドキュメンタリー」という、とんでもないPVがあったのです。
当時、NHKの教育テレビに「若い広場」という番組(だっさー。さすがに80年代になって、"YOU"と改称されました。それもダサい?だってNHKですから…)があって、その枠で60分、オフコースが"Over"を制作する様子をドキュメンタリーで放映したのです。

作曲担当の小田・鈴木・松尾がコード進行だけ書いてきた譜面をもとに「せーの」でリハーサルしながら曲を煮詰めていくところ、歌詞とメロディは録音が始まってもまだ決まっておらず、歌詞を作りながら、メロディを決めていくところ。ああ、今の音楽ってこうやって作っているんだ、と蒙を啓かれました*2
そして、いよいよ終盤、今日明日で歌入れを終わらないと発売日に間に合わない、という状況で、徹夜続きの小田和正疲労のために声が出なくなる、という場面で事態は最高潮を迎えます。そして翌日、何とか回復した小田さん、最後はYassさんと同じブースに入って「愛の中へ」のコーラスを録音して"Over"は完成します。いやー感動しますよ。

私はすぐにレコード・ショップに行ってオフホワイトのジャケットに包まれた"Over"を買って聴きました。ああ、あのリハーサルの曲は最後にこうなったんだ、と確認しながら聴いているうちにすっかり大好きになってしまいました*3
このNHKのドキュメンタリーは何故か、というか今更というか、20年も経った2002年にDVDで発売されました。

私も当時ベータマックスで録画して、見ることのできなくなったテープの代わりに買ってきました。今でも買えるはずです。

over(紙)

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Off Course 1981.Aug.16~Oct.30 若い広場 オフコースの世界 [DVD]

Off Course 1981.Aug.16~Oct.30 若い広場 オフコースの世界 [DVD]

*1:"NEXT"は82年9月にTBSで放映された特番のサントラ盤として発売されました。TBSとの繋がりは、これ以降、現在までずっと続いているようですね

*2:だって、演歌の大先生の作曲風景って、詩をもらった後でピアノで作っていくじゃないですか。当時の僕は、作曲とはそうやってするもんだと思ってました。まさか歌より先にカラオケを作ってるなんて…

*3:そして私はこれを参考に自分で曲を作ったりする大学生になりました